実際に筆者が欧州系エアラインで乗務していた際も、欧州~タイ便は常にヨーロッパ人で大盛況な一方、空席が散見される欧州~日本便では乗客も日本人ばかり。母国の不人気ぶりに切なくなったものです。そんな経緯から、ここ数年ようやく日本が脚光を浴びて嬉しい反面、円安による昨今のオーバーツーリズムと行政の不十分な対策を考えると素直に喜んでもいられないようです。
筆者は今年イタリアのローマとスペインのバルセロナを訪れたのですが、ここでも痛感したのがパンデミック後に加速したオーバーツーリズムの弊害。ただ、どちらの都市も積極的に対策を講じているのが印象的でした。
ローマ……厳格化された入場規制と罰則
トレヴィの泉

近場の観光地、パンテオン教会ではすでにローマ市民と17歳以下、18歳から25歳のEU市民、18歳以上の一般客との三重価格が導入されており、トレヴィの泉でも有料化が実現すれば、実質上の二重価格となりそうです。
これには観光客の集中回避、訪問者の体験向上、貴重な文化財の損傷防止の目的があるとのこと。というのも、観光客が泉に立ち入ったり、投げ込まれた泉内のコインを盗難したりするケースが後を絶たないためだそうです。去る2月にも酩酊したニュージーランド人が泉に飛び込み、500ユーロ(約8万1691円 ※参考:163.17円/1ユーロ、6月2日時点)の罰金と永久入場禁止を科せられる事件があったばかり。
コロッセオ(世界遺産)

また同年、17歳のドイツ人女性が落書きする様子が国家治安警察隊(カラビニエリ)に通報され、女性と家族はすぐに連行・訴追されました。こちらも同様の刑が科される可能性があるとのことです。
この他、名画「ローマの休日」に登場するスペイン階段でも、座り込みや飲食が罰金対象となるなど、世界遺産近辺は多数の警察官が常駐して目を光らせており、大切な歴史建造物を傷つけるものは許さないという厳然たる姿勢が打ち出されていました。
バルセロナ……地元住民を優先させた街づくりへと舵を切る

デモ行進中に掲げられたプラカードには、
などの激しい言葉が連ねられ、時には観光客に水鉄砲を浴びせる場面もあるなど、住民たちの我慢が限度を超えたことが鮮明となり、市も真剣に対策を講じはじめたようです。「観光客は帰れ」
「バルセロナはディズニーランドではない」
「住民が絶滅の危機に瀕(ひん)している」
>人気撮影スポットからサグラダ・ファミリアを見ると……
これを受けてバルセロナ市は以下のようなプロジェクトを打ち出しました。
1. 観光客向け短期賃貸の禁止(2028年までに段階的廃止)
専任の検査官を増員して、違法な観光客向け賃貸物件の取り締まりを強化し、不足している住宅市場に約1万件の物件を戻す計画。
2. サグラダ・ファミリア周辺の観光管理
バルセロナ観光の目玉、サグラダ・ファミリア教会近辺の観光客集中を緩和し、周辺住民の生活環境を改善するため、1544万ユーロ(約25億円)を投じて37にも及ぶアクションプランを策定。具体的には、観光バスの停留所やタクシー乗り場の再配置や、安全に撮影できるセルフィーゾーン広場(約6200平方m)の建設など。
3. 観光バスの規制強化
観光バスの停車・駐車規制を強化し、特定エリアの混雑を避けるプラン。バスの駐車料金も1日20ユーロから80ユーロ(約3200円から約1万3000円)に引き上げられ、都市部への過度な流入を抑制。
4. 観光客の分散化と地域活性化
ガイド付きツアーの人数の制限(旧市街では最大15人まで)、観光ガイドに対するイヤホン使用の義務化(騒音防止)、周辺地域での無料ウォーキングツアーや割引制度の導入などを実施。
このようにバルセロナでは観光による経済効果を維持しつつ、住民の生活環境を守るためのバランスをとる方策を模索しています。
先述のローマが自分たちの大切な文化や遺産を毅然と守る姿勢、そしてバルセロナの観光と地域社会の共存を目指す数々の取り組みは、オーバーツーリズムにあえぐ日本の観光都市にとっても参考になるのではないでしょうか。
この記事の筆者:ライジンガー 真樹
元CAのスイス在住ライター。日本人にとっては不可思議に映る外国人の言動や、海外から見ると実は面白い国ニッポンにフォーカスしたカルチャーショック解説を中心に執筆。All About「オーストリア」ガイド。